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編集後記vol.31

 今日から3月。春のせせらぎを思う時、なぜかその清らかさとは真逆のある童話を思い出すことがあります。宮沢賢治の短編『毒もみの好きな署長さん』。賢治の童話の中でも有名な部類ではないかもしれません。舞台は、とあるのどかな町。その町では「毒もみ」をして魚を捕ることが禁止されています。毒もみとは、山椒の木の皮と木炭を混ぜたものを水中でもみだし、それをすることで魚がみな毒を飲んで死んでしまい、水面に腹を出して浮かんでくるのです。取り締まるため、総銀歯にピンとした赤ひげの新しい署長さんがやってくるのですが、子供たちから犯人は実はその署長ではないか、との噂が広まり…。最後に署長はあっさりと罪を認めるのですが、「ああ面白かった。また地獄でも毒もみをやるかな」と首を切られる瞬間にも笑っています。

本を読んだのは小学生の頃でしたが、総銀歯の歯を光らせて笑う署長の顔が浮かび、ヒュッと肝が冷えたのを思い出します。人間の狂気というものを初めて感じた瞬間だったのかもしれません。読書から得られるインスピレーションは、新たな自分との対話へと繋がります。時に苦手な分野や、興味の無さそうな作品に手を出してみるのもいいでしょう。

思考の未知のシナプスが繋がり、行き詰まっていた課題に新しい道筋が見えるかもしれません。

編集長S